福岡高等裁判所 昭和49年(行コ)6号 判決 1975年8月19日
熊本市城東町二番六号
控訴人
有限会社 クラプ優雅
右代表者代表取締役
北野公祐
右訴訟代理人弁護士
東敏雄
熊本市二の丸一番地
被控訴人
熊本西税務署長
渡部克己
右指定代理人
小沢義彦
同
中島清治
同
村上悦雄
同
宮田正俊
右当事者間の課税処分取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四四年一〇月四日付でなした (一)控訴人の昭和四二年六月一日から昭和四三年五月三一日までの事業年度における法人税更正および重加算税賦課の各処分 (二)源泉徴収所得税の納付告知および不納付加算税ならびに重加算税の各賦課の各処分は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」旨の判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張と立証は、控訴代理人において、左記に付加陳述するほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。但し、原判決二枚目裏一三行「金九八七、五八二円」の次に「法人税額二七六、三〇〇円」を挿入する。
一、控訴代理人の主張
本件の争点は、控訴人が仮受金又は短期借入金として合計二〇四万八、一二六円を計上したのを、被控訴人が否認した根拠は何かということであり、否認された結果の計算の仕方ではない。青色申告の場合には、帳簿書類の調査により、課税標準又は欠損金の計算に誤りがあると認められる場合に限り更正決定をすることができるのに、被控訴人は本件更正決定をなすにつき、何らかかる誤りを指摘しない。借入金につき貸主の氏名を明らかにしないことが、直ちに計算の誤りその他の不突合となるものではない。この場合に、借入金を除外利益と認定するために適格な事実を一切指摘しないならば、推計による課税を行つたものに外ならない。ところで、推計課税は白色申告においても無制限に許されるものではなく、一定の条件が必要である。まして、青色申告においては、あくまで実額課税が原則で、その帳簿又は伝票などの記載が整然となされ、その間の不突合がなく、収入、原価、経費、支出などが個別的に把握できる状態にあるから、推計課税をいれる余地なく、法律もこれを禁じているのである。この整然たる帳簿体系の中において、ある借入金の貸主の氏名が明らかにされない場合に、それを直ちに除外利益とみることは、帳簿体系に基づかない恣意的な推計課税を導入する以外に方法はない筈である。被控訴人が本件借入金を除外利益と認定するためには、その除外利益を実額的に把握した根拠を示さないかぎり違法である。
二、被控訴代理人は当審で乙第九号証を提出し、控訴人はその成立を認めた。
理由
一、当裁判所も、控訴人の本訴各請求を棄却した原判決の判断を相当と認める。そして、その理由は、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。なお、原判決六枚目裏一二行「被告法人課職員」とあるは、「熊本西税務署法人課職員」と訂正し、同八枚目表八行「確定申告所得額に右額を加えて」の次に「繰越欠損金一〇六万〇、五四四円を追認したうえこれを控除し」を挿入する。
二、控訴人の当審における付加的主張については、原判決理由二、3項で説示するとおりである。控訴人は、かかる場合も、推計課税であるとするのであるが、いわゆる税法上の推計課税とは、税務署長が法人税等につき、更正・決定する場合に、直接資料によらずに、納税義務者の財産又は債務の状況、収入又は支出の状況、生産量、販売量その他の取扱量、従業員数等所得を間接的に推定させる各種の資料を用いて課税標準および税額を認定する方法をいうのであり(法人税法一三〇条参照)、本件のように被控訴人たる税務署長が帳簿書類の調査を通じて、個別的に発見された借入金の存在に疑いを抱き、具体的に追求調査したのに対し、控訴人の供述は変転し、最終的には否認さるるも止むなしとの態度で借入先を明かさなかつたので、被控訴人の調査も終に借入先を確認できず、借入金の否認をした結果企業会計の原則上当該事業年度における所得額が変動し、除外利益が算出されるに至つたのはいわゆる推計課税ではなく、法人税法上是認された「帳簿書類を調査し、その調査により課税標準または欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合」に該当するものと解するのを相当とする。
三、そうであるとすれば、原判決は相当であつて本件控訴はその理由がないのでこれを棄却することとし、民訴法三八四条、八九条、九五条により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 亀川清 裁判官 美山和義 裁判官 安部剛)